インドの街を歩いた記憶

各地の便り&短いお話

街角の信仰

インドには沢山の神様が祀られている。
ヒンドゥー教徒が多いインド。
シヴァ、ガネーシャ、ハヌマーンなどヒンドゥー教の神々が街のいたるところで見受けられる。
インドを旅行した時、狭い路地の片隅、木々の足元に祀られた神像を見た。

神像がある一角は特別に整えられているわけではない。
薄暗い路地の片隅、人の往来が激しい道路の脇、花壇に生えた大木の根本だったりする。
路地には商店があり、道路では車やバイクが激しく走り回っている。
大木の横では食事屋が得体の知れない出来立てパンを売っている。
人々の生活と共に神々がいる。

狭い路地を歩いている時、前から向かってくる地元民らしき人がいた。
その通路の中ほどには誰が作ったのかガネーシャの像があった。
道まで迫り出すガネーシャ像は狭い路地をさらに圧迫している。
人々がすれ違う時は互いに道を譲らなければならない。

私は前から向かってくる地元民に道を譲るため、歩みを遅らせて暗黙のまま先を譲った。
その人は歩きながらガネーシャの前で体を捻り像と向き合った。
そして立ち止まることなく、上半身だけを捻ったまま手を合わせて頭を下げていった。

わずか数秒だったがその光景は今でも忘れられない。
ガネーシャはただの像ではなく、ヒンドゥー教徒にとっては神なのである。
道にある置き物ではなく、祈りを捧げる対象だった。
何千回、何万回そうしてきたのだろうか。
特別なことではなく、身に染みついた日常の動作であることがその姿からは伝わってきた。
日常生活と信仰が同じ時間、同じ目線で流れていることを知り、視界が開けたような気がした。

「インドの街を歩いた記憶」街角の信仰
タイトルとURLをコピーしました